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何故、自分だけがこんなにヤキモキとしながら、見守っていなければならないのかと、日向は自問した。
「日向。何をさっきから表情を変えているんだ」
刀真にも注意されて、日向はようやく話に集中した。因みに刀真はさっきのやり取りからは何も察するところが無かったらしい。見た目通りの朴念仁(ぼくねんじ)なのだ。
大峯山での死闘の影で“後鬼”義賢は、かつての主である役小角を探していた――それが話の大体の筋だった。
日向や陰陽師達が岡見学園以来、二度に渡って戦った伝説の陰陽師は本物だったらしい。以前にも魂呼ばいの怪異において、中原常社という陰陽師の亡霊に会ったことはあるが、小角の場合は似てはいるものの、亡霊の類ではないらしい。かといって彼は不老不死になったわけでもない。
「彼がまだ生きていた頃の話……なんかしても、想像がつきにくいかもしれないけどね。当時の我が主はドがつくほどのお人好しだった。悪さをする鬼ですら改心させるよーな……ね」
義賢は当時の事を思い出してか、なぜかうっとりとした。
「けど、有能でもあったが為に朝廷での政治的な争いに巻き込まれ、そこで人間の様々な負の感情を目の当たりにしたの。妬み、誹り、策略に嵌められたこともあったのよ。ある時は全くの虚偽の罪で伊豆の大島にまで流された。そこでも彼は人助けになるような仕事をいくつもしたわ。けどね、そこへ流されたのが転機だったのかしら。彼の中で魂は二つに分かれてしまった」
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