序章 竜宮 崩れる

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 瞬間、電波塔に変化が訪れる。窓ガラスが崩れ落ち、建物は根元から崩れ、隣のビルに寄りかかるように横倒しになった。激突したそこからドミノ倒しのように連鎖的にビルがぶつかる。ガラスが割れ、外壁が割れ、中にあった椅子が、机が、電子機器が、カーテンが、置物が、植物が、階段が、エレベーターが、エスカレーターが、扉が、その他ありとあらゆるものが崩れ落ち、押し崩していく。  永遠とも思える時間、何重にも掛かる煙が、劇の幕のように左右へと晴れていく。  剥き出しの鉄骨、破片の山が築かれる。  一面の廃墟。その中で電波塔の頂上にあった折れたアンテナとそこについたチラシが、敗将の背中に立つ旗のように揺れていた。  黒い風は唐突に止んだ。  時が止まったかのように、チラシもはためくのを止めた。  そこにはこうあった。 海上都市 りゅうぐうへようこそ!!   海上都市りゅうぐうは、皆様からのご支援ご支持を頂き、本日開島することができました!  水族館、遊園地、カジノ、ホテル、ショッピングモール、映画館、遊覧船等々、皆様に夢のエンターテインメントをお届け致します。  中でも当都市が誇るりゅうぐう水族館では、その名の由来である竜宮城のように、海の自然を眺めつつの宴会もお楽しみ頂けます。お土産は勿論玉手箱! どうぞ、心ゆくまでお楽しみください。  時の流れを忘れてしまいそうになるような一日を、あなたに。  はらりとチラシが剥がれて地面に落ちる。そこへ誰かが裸足で踏み込んだ。  少女だ。十になるかならないかというほどの年代の少女。足に届く程に長い黒髪に白い着物の少女。廃墟に舞い降りた天使か妖精――そんな印象を、見るものがいたら抱いただろう。   その少女の髪は濡れそぼっていた。ひたひたと瓦礫を濡らしながら歩く。 「だれかがよんだ。あのときとおなじ」  封鎖区域の街の突然の崩壊。それは瞬く間に、午後の臨時ニュースとして全国に伝えられた。
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