第一章 始まりは終わりの地で

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「沖博人という陰陽師の名前はちらほら聞いていたのよ。大昔からね」  彼女の言葉に、一真へと全員の視線が集中する。大峯山の戦いの中で、博人が妙なことを言い残したのを、日向は今も鮮明に覚えている。 『一応、聞いておこう。君は誰だい?』  まるで、何のためらいもなく一真が同志になる予定だったのを裏切られたかのようなそんな台詞だった。それに前から気になっていたことはある。  それは彼の魂のことだ。一真には他の人間――陰陽師も含めて――にはない特性がある。それは魂の中にもう一つの魂があることだ。  それを魂と読んでいいのかは分からない。「内なる幽暗」負の気を取り込み、糧とする機関。その実態は地獄へと繋がる扉とも言える。そして、一真の生命が危機にさらされたときは内に宿る裏の人格が表へと出てくる。その時の彼は比喩ではなく、人が入れ替わったかのような強さを発揮するのだ。  そして、今の義賢の話。魂だけの存在として生き続ける方法があるのだとしたら……その逆も可能なのではないか。  思えば、「内なる幽暗」という名前を付けたのも、博人だった。 「……大昔から?」  一同の驚きを代表するように、博人が聞き返した。義賢は自分もよくは知らないのだというように肩をすくめた。 「そ。彼の存在は、影のように様々な時、場所で見え隠れしているの。現陰陽寮でも過去の書物を隈無く調べれれば、ある程度のことはわかるんじゃないかしら――まぁ、尤も」と、義賢は一真を見た。日向は避けられない事実が向かうのを感じて、全身の霊気が慌ただしくなるのを感じた。 「彼に聞いたほうが早いかもしれないけどね」 「ちょっと!!」  日向は何を言うか決める前に口走ってしまう感覚に陥りつつ、冷静になろうと努めた。無駄だったが。
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