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一真は俯いていた。義賢の予測したことは恐らく、図星なのだろう。だが、彼自身その“新たに分かった何か”に対しての感情の整理がついていないように見えた。
「彼の中にあるもう一つの魂について言っているのであれば」と今まで黙って成り行きを見守っていた刀真が初めて口を開いた。
「我々は彼が自分から頼んで来ない限りは、調査しないと決めている。また、他の何者にも調べさせはしない」
我々――それは、栃煌神社の陰陽師達の事を指しているのだろうと、日向は察した。土御門創二のような陰陽師達は、一真の中にある魂を調べたくて仕方がないはずだし、実際それを栃煌神社に何度も打診しているはずだ。そんな陰陽師達と刀真は交渉し要求を阻んでいるのかもしれない。
「それで、中の魂のせいで彼の体がどうにかなってしまってもいいの?」
「そうならないために、鍛錬を積ませているのだ」
――ひゅう、カッコイイおじさま。
素っ気のない荒削りな言葉の中に、信念を貫き通す意思が込められている。口笛を吹いて称賛したかったところだが、した途端に睨まれそうな気がしたので止める。
「刀真さん、ありがとうございます。けど、俺が理解できた範囲でいいなら、ここで話します。話させてください」
一真もまた決然とした表情で、前に出た。顔はまだ青ざめている。感情の整理はまだついていないのだろう。
――全く、こんな時に月は……。
「いいの? 一真君」
ここから逃げ出してしまった主に対して日向は若干の苛立ちを感じる。今こそ、一真の傍にいるチャンスなのにと、狡いことを考える。
「あぁ。話さないでいたら、もっと悪い状態になりそうな気がするし、なにより俺が気持ち悪い。誰かに話してしまって少しでも楽になりたいんだ」
黙っていたらますます気分が悪くなりそうだという感じで一真は告げた。蒼と氷雨が気遣うような視線を向けたものの、口は挟まずに成り行きを見守っている。
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