第一章 始まりは終わりの地で

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 本物だったのかどうかと聞くのは、馬鹿げている。役小角と互角以上に戦い、「晴明」と呼ばれても、否定しなかった。  だが、だとすれば、今この目の前にいる少年は、一体何者なのだろうか。 「藤原霧乃」なのか「安倍晴明」なのか。 「現陰陽寮の重鎮共、土御門の連中には口止めされてんだけど……、ま、話したところで殺されはしないだろうから話すけど」  その言葉に三善と南雲が体を硬直させた。どちらも十二天将という強力な式神の主である現陰陽寮における「重鎮」クラスの陰陽師である。だが、二人共霧乃の言葉を止めようとはしない。  これ以上秘密を保つのは不可能であると判断してのことだろう。そもそも安倍晴明や霧乃本人達(?)が秘密にしておくつもりがないのだから、隠し通せるものでもないだろう。 「俺は元は土御門の人間だったんだ。知ってると思うけど、土御門家は安倍晴明の先祖の家系だ」  土御門は室町時代以降に安倍晴明の子孫が掲げた家名だ。そして、陰陽師が歴史の表舞台からいなくなった後は、現陰陽寮の最高トップを担っている。 「1000年も前に亡くなった我が偉大なご先祖様は、魂の霊術を使い、魂を現世に繋ぎ留めた。自分の遺体を使って作り上げた人形を形代にねぇ。生への執着か、それとも自分がいなくなった後の世界が不安だったのか、なんでそうまでしてこの世に残りたかったのかは俺の知ったことじゃないけどね。おかげで、と言うべきか、陰陽寮は今日この日までずっと滅びることなく栄え続けることができた」  これだけでも身の毛のよだつような話だったが、この話にはまだ続きがある。それがろくでもないことであろうことは、一真にも想像がついた。
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