第一章 始まりは終わりの地で

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†††  照る朝日に体を輝かせ、一隻の船が大地に影を落としていく。海面をその下にいる数多の生き物を飲み込むように、進む。吹き荒れる霊気が風となって帆を打つ。  この“世界”に人間が定めた物理法則は当てはまらない。常であれば、光も届かず、風が吹くこともない虚無の世界。そこに映し出されるのは表の世界の鏡の姿であるはずだ。 ――だが、今この島は動いている。  ポツリと浮かぶのは人間が造り出した島だった。  空に向けて咲き誇る鉄の花。それは島の中心となる電波塔だった。“花びら”には何枚ものソーラーパネルが設置され、太陽光によって発電し、塔へと電力を供給する。そこを中心に鉄の根が海へとその先を降ろし、広がり、島を形作っている。  メガフロート――超大型浮体式構造物が根の正体であり、それを繋ぎ合わせていくことで、ひとつの植物のように広がっていく……この都市を設計した者達が描いた理想だったのかもしれない。 ――だが、この島の理想は捻じ曲げられていった。  当時としては――今でもそうだが――画期的な都市計画だったのは間違いない。このどこからどこまで何一つ自然的でない島は、使いようによれば増えすぎた人口、温暖化問題、景気の不振と、様々な問題を解決する糸口になり得る。その筈だった。 ――だが、人間はそこまで理想に忠実ではない。  建造の目的が、当初の理想と大きくかけ離れていたことを知った周辺の住民達の猛反発、それを押し切る形で島は作られた。実に二十年近い歳月を掛けて。  ところが、その島は開島されたその日に、崩壊することになった。 ――忠実は欲望に対して使われる。  原因不明のパニックが海上都市を襲い、島は人間の手によって壊滅状態に陥ることとなった。 ――欲望は調和を乱す。  そんな過去を持つこの島が、動いている。封印されし時の動きを取り戻したかのように、周りの海を巻き込みながら……。 ――乱された調和を正すのは。  船は行く。その島へと陰陽師達を運ぶために。
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