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『そのようなものを見せずとも、既に彼女は罰を受けている』
影葛は写真をちらっと見ただけだ。しかし、その言葉は温情に満ちているとは言い難い。
一条八鹿は霊気を遮断する霊具をその身にまとっていた。発動すれば、霊気を霊力に変換し、術を行使するという流れが止まり、一時的にだが凄まじい脱力感に襲われて身動きすらままならなくなるという。
敵はその制御を乗っ取り、恐怖で八鹿を縛り、自分たちの為に働かせた。彼女は結局一真のために“虚無の徒”を裏切ったが、影葛はそれまでの流れすらも予測していたかのようである。
恐怖に負け、現陰陽寮を裏切った罰……しかし、もしも八鹿が敵の要求を跳ね除けていたらどうなっていたのだろう。
わからないが、今八鹿は道場の方で治療を受けている。それも霊具を作った張本人の手によって。
「ま、分かってたけど」と氷雨は呟いた。これ以上彼女が罰せられないことに安堵しているが、完全に納得しているという風でもない。
『まぁ、そんなところで、次は今後のことについて話そか……と、おいおい、嬢ちゃん。もしかしてあんちゃんが恋しくなったか?』
なんだと怪訝になる一同の中で、ただ一人霧乃だけがぞっと背筋を凍りつかせていた。そして、聞き覚えのある声、留守電に百件位残された声が聞こえてきた。
『そ、それもありますけど、そうじゃないんです。緊急の用件です。怪異が起きたんです! それもここ京都よりも、栃煌市からのほうが近い場所で』と、海馬の横からひょこりと少女が現れた。今日の千星空(ちぞら)は長い髪をポニーテールに結んでいた。前に一度だけ電話した時に思わず漏らしてしまった霧乃の好みの髪型だった。
一瞬目が合うと、彼女はぽっと頬を紅潮させた。やめてほしい。
『あ、おにーさまー』
「いいから、さっさと話せ」
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