第一章 始まりは終わりの地で

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 そんな集団の後ろから晃が呆れながら付いていきつつ、彩弓となにやら話していた。主に話しかけるのは彩弓で、晃は適当に相槌を打っていた。 「あ、あとね、一真お兄ちゃんと会った時なんだけど、私、命狙われてたの」   「……でっかい凧の話からいきなり重い話に切り替わりやがった」  晃がおいおいと言いたげに目を細めたが、彩弓は気にしていない。 「その時、私を殺そうとした人達も怪我して道場にいるの」   「運命の再会ってところかね……別に今は殺そうとしたりしないだろ」 「うん。でも、どう話しかけてみたらいいかわからない」  それはそうだろうと一真は思った。晃が「別に話す必要ないだろ」と言っている後ろで一真は以前の魂呼ばいの怪異の時のことを思い出していた。  一条橘花、霞、八鹿の三人は怪異を引き起こしていた亡霊を討つべく、常社神社へと向かうものの、あろうことか怪異を引き起こしている亡霊である中原常社に説き伏せられ、彩弓こそが世界の均衡を乱すものだと信じ、彼女を殺そうとしたのだった。  思い返してみると、彼女達の根拠は常社の言葉、彼が見たという予知夢だった。  一般人からしてみれば非常に曖昧な物を信じるのだとも思うが、逆に言えば陰陽師にとってはその曖昧な物こそが真実と映る。もっと言えばその曖昧なものを解明していくことが陰陽師の責務でもあるのだろう。  確かに霊術は知識としてよりも感覚で身に付けなければならない術の方が多い。   一真の中にあった古代の記憶は鮮明だった。一条の三姉妹もまた常社にはっきりとした未来の光景を見せられたのかもしれない。 ――俺の中にある記憶も全部が正しいこととは限らない……かもしれない。  そう考えると、急に自信がなくなってきた。 「でもね、あの人達、きっと前とは全然違う人になってると思う。いい人になったと思う」  彩弓が後ろでそんなことを晃に力説している。晃はそうかいと答えていた。大峯山の戦いの中で博人に叛旗を翻した巫女が、かつて彩弓の命を狙っていたことを晃は知らないが、同一人物である可能性を予想はしているかもしれない。
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