第一章 始まりは終わりの地で

59/71
前へ
/183ページ
次へ
 いつも見慣れている場所とは思えない程に、道場は騒がしく、戸を開けると人の声が波のように押し寄せた。八乙女朝霞の率いるト組の男たちだ。その周りを朝霞と彼女が作り出したのだろうか、紙で出来た人型の式神が動き回っている。 「なんだよ、おせーなお前ら。もう仕事なんかないからな」   「いや、別にお前も特に何もしてないだろ」と長倉が突っ込んだ。元々、戦いで受けた傷の殆どは舟の中で治療されている。朝霞が手に持っているのも治療用の道具ではなく、お茶の急須だった。 「いやまぁ、ちょっと熱すぎるけど、お頭の入れてくれたお茶うめーよ。将来はきっといいお嫁さんになるぜ」と組の男の一人が冷やかした。「うっせぇ、頭からお茶かけんぞ」と真っ赤になりながら朝霞が怒り、周りで笑いを読んだ。  そんな喧騒の中心から距離を取り、小さく固まっている三人組が一真の目に留まった。一条の三姉妹だ。八鹿以外に会うのはあの魂呼ばいの怪異以来だろうか。確か、一番上が橘花でその下が霞だったか。  霞は左目のあたりを包帯で覆っていた。その包帯も赤茶色に汚れていた。  八鹿は横になっている。巫女装束の白衣は前が空いていた。肌には包帯が巻かれており、よくよくみると霊符が幾つか貼られている。どことなくAEDのような治療器具を彷彿させる。  傍では、白衣を着た中年の男が霊符を一枚一枚身長に彼女の体に貼り付けていた。  橘花と霞は、近づいてくる一真達には気がついていないように、目を逸していた。
/183ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加