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「よう。覚えてねぇと思うが、助けてくれてありがとな」
「あなた……、確か生成りの鬼の……」
言ってから、はっとしたように八鹿はうつむいた。しかし、晃は怒ることも悲しむこともなかった。
「それで合ってるさ。それに生成りになったきっかけのせいで、現陰陽寮を恨んでもいた。『なんで俺だけ助けたんだ』ってな。でも、それは傲慢な考えだったかもしれないって今は思ってる。少なくとも復讐のためだけに、友人を死の危機にまで追いやるのは馬鹿げてる」
「……あなたにもその、なんらかの罰が現陰陽寮から下るかもしれません」
「だろうな。最終的に裏切ったとはいえ、俺は現陰陽寮に弓引いた連中と一緒に戦ったんだから」
冷静に話しているように見える。感情を心の奥底に隠しているかのような喋り方だった。中学校の頃、道場にいた時の晃。考えてみればあの時もどこにぶつけていいか分からない憤りを意識の奥底に眠らせていたのかもしれない。
「その件についてはこちらで話がついているぜ」
そう言いつつ入ってきたのは、三善慧玄だった。後ろには義賢と五人の息子たちがついてきている。晃とよく行動を共にしていた真義(しんぎ)が先頭だ。
そしてその後ろから笹井とその式神である瑠璃がてくてくとついてきながら入ってきた。笹井の方は無表情に、瑠璃の方は道場の至る所に視線を巡らせているが、どうにも上の空の様子だ。
「そいつはありがたいね。で、俺は一体何をすりゃいい?」
晃のふてぶてしい台詞に、慧玄は片方の眉を吊り上げて笑う。
「まだ、何も言ってねーぜ? なにか頼まれてくれとな」
「得体のしれない場所に監禁されるみたいな罰じゃないことを祈る」
「お、それもいいかもしれねぇなぁ」
物騒な冗談に二人の間で緊張した空気が残った。
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