第一章 始まりは終わりの地で

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 先日起きた事件――“大峯山の魂呼ばい”と呼ばれている――で蘇った沖博人。そして、彼が結成した霊術者集団、虚無の徒。その構成員には現陰陽寮の陰陽師も多数存在していた。  現陰陽寮の敵となった役小角を捕らえるべく派遣された土御門伊織とその配下にある化生討滅部門の切り込み組――通称い組。部隊ごとの離反は、組織の基盤を根底から崩しかねない衝撃的な事件となった。現陰陽寮が十二天将を総動員したことで、虚無の徒自体は撤退したものの、彼らに勝利できたとは口が裂けても言えないだろう。  この事件の後、現陰陽寮はすぐにでも虚無の徒を追撃するべきであり、また“戦力的には”可能であるはずだった。それをしなかったのはひとえに土御門伊織の叛乱が尾を引いているせいだった。  現陰陽寮の当主である土御門影葛の息子であり、実力は十分以上、ゆくゆくは現陰陽寮の幹部となると目されていた人物である。陽気な人柄と内に秘めた野心的な熱気を織り交ぜたような男で、カリスマ的な魅力を持っていた――だけに、その離反がどれだけ組織に影響を及ぼすかは想像もつかない。  内側の敵から探し出す必要性があったために、現陰陽寮は迂闊に部隊を編成することも動かすこともできずにいる状態にある。 「全てが彼の思惑通りということだ」 「そりゃまた、現陰陽寮としては気に食わない状況なんじゃないっすか」  晃は三日月のような獰猛な笑みを浮かべている。春日家の当主は眉一つ動かさずこれに答える。 「私が気に食わないかどうかはさておき、ここには、解決しなければならない問題がある」  海上都市――“りゅうぐう”。そこで再び怪異が起きたのはつい昨日のことだった。
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