第一章 始まりは終わりの地で

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「尤も、それを決めるのは俺ではないし、現陰陽寮にだってそんな権限はないんだがな。だから俺は〝手伝って"貰いたいと言ったんだ。そいつは晃君にも言えることだがな」  選択は自由だ。そう言われても、未来は納得がいかない様子だった。一真としても、どこか慧玄が狡いように見えてしまう。あんな論理を展開された後では、断るのにだって勇気がいる。誘いを受けたとしても、慧玄の思うつぼと言った感触は拭えない。慧玄が人間として悪い男だとは思えないが、現陰陽寮にとって都合がよくなるよう、なおかつなるべく論理的になるように説得しにかかった可能性だってある。 ――まぁ、それでも。 「俺の答えは最初から決まっています」  未来がハッと息を呑んだ。今回ばかりは彼女もついては来れないだろう。だが、彼女には悪いが、一真は決めていた。 「俺は行きます。だけど、俺は自分の身だけ守れるようになるなんて言わない。ここにいる全員を守って戦える位になってみせる」  月、未来、晃、碧、舞香、常盤、佐保そしてそれを聞いていた陰陽師達が息を呑んだ。  ただ一人、慧玄だけがにやりと老いた獣の長のような壮絶な笑みを浮かべてその答えを受け入れた。 「カッカカカ! 生意気なガキだな!! だが、そんくらいデカい意気込みなら隣にいる人間一人位は守れるかもなぁ!」  とたんに隣にいた月と未来がぎくりと肩を震わせたのに誰もが気付いたが、あえてそれをからかうようなことはしなかった。が、晃だけはそこまで甘くはなかった。 「ホント、お前いつからそんなにモテるようになりやがった」 「ハアッ!?」  二人の声が見事にシンクロする。 「他の女子連中の見る目もどこか羨ましそうに見えるしな」 「は?」 「え、ちょっと……やだなぁ! そんなわけないじゃん!!」  碧が冷たくあしらい、舞香が慌てて応じる。常盤はどこか怒ったような表情で、佐保は完全に視線を逸らしていた。  そんな中――。 「この人は月さんの事が好きなんですよ」  布団の中から八鹿が呟くような言葉で指摘した。
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