第二章 蒼海の宴

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 蒼に結婚前提での付き合いの話が出たのだった。陰陽師同士の縁結び――と言うと、どこか古いしきたりじみたというか、見えない鎖に雁字搦めにされたような運命を感じさせるのだが、二人が心から通じ合っていたのは公然の秘密であった。  むしろ、周り――特に一足早く結婚した真二と氷雨の夫婦は――に散々盛り上げてもらって、ようやく「あの男」が、あの恋路に関しては、頑なにして抜けていてその上ヘタレであった「あの男」が告白したのである。  しかし、二人の交際――俗にいうデートというやつが日取りが決まったまさにその日に、蒼は今回の作戦に召集されてしまったのだ。  散々盛り上げた周囲はその事に腹を立てたものだが、当の本人達はどこか、安堵したような様子で現実を受け入れたのだった。  そのことに関して、本当は物言いたい真二であったが、蒼はその事には気付かないまま、膝の上に折りたたまれて置かれた刀袋に手をやった。中にあるのは懐剣だ。 「大丈夫よ。だって私の相棒だった剣の一つは彼が持っているもの」 「……プロポーズの返答が破敵之剣白陽天ノ光、か。古典的っていうか陰陽師らしいというかなんというか、お前達らしいな」   陰陽之巫女――春日蒼。陰陽二つの神からの加護と呪詛を受ける彼女の家に代々受け継がれてきた二振りの剣。その一本を与えるということは、その家の血筋に迎え入れられるということであり、ロマンチックな見方をすれば、プロポーズとも取れる行為である。 「ま、夫婦になるまでの辛抱だな。なんせ現陰陽寮(うちら)は、恋愛禁止が暗黙のルールだからなぁ」 「……とても、そうは思えないのはなぜ?」  真二達がこれまで蒼と男をくっつけようくっつけようとした努力――蒼にしてみればいい迷惑――を思い返しているのだろう。蒼の言葉に、真二はんー……と、視線を空に泳がせてから、今思いついたように答えた。 「そりゃ、ルールだの仕来りだのは破るためにあるもんだからさ。皆お前らみたいな仕来り守るいい子ちゃんだったら、とっくに人類は滅んでる」
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