第二章 蒼海の宴

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†††  竜宮は近代的なビルと緑豊かな自然が共存する場所――待ち合わせ場所へと向かう中、何度か長嶋にそう説明されたが、蒼にしてみればどちらも人工物という点で変わりは無いように思えた。ビルの中の通路は広々としており、通路の間、間にヤシの木みたいな樹木が植えられた巨大な植木鉢があるのだが、虫が寄り付かないように薬は撒かれているし、通路も清潔を常に保つようにしているせいか、洗剤の香りが微かに漂っている。  窓から見える景色も緑が広がってはいるものの、それは人間にとって都合良く「設計」されたものに過ぎない。  この場所は嫌いではない。むしろ居心地は十分過ぎるくらいにいい。だが、その一方で自分が何か騙されているのではないかという気持ちも沸いてくる。  一言で言うなら違和感。この島のキャッチフレーズに対してとか、そんな些細な事ではない。その正体を、「連中」が事を起こす前に明かせればいいのだが。  難しい顔で歩く横を二人の子どもが走り去っていくのが見えて、蒼はふと立ち止まった。 「キー君遅いよ!」 「ちょっと待ってよ、瑠璃ちゃん……」  なんだ、と前を歩いていた真二が振り向いた。 「元気だなぁ。子どもは」 「もしも、子どもができたら、あれ位伸び伸びとしてくれるといいのだけど」 「あんまし、伸び伸びさせ過ぎると子どもっぽくなるぞ。てか、まだ結婚もしてないのに、子どもの話か」  くっくくっと笑う真二を、蒼は頬を膨らませてジトっと睨んだ。子どもの話を考えずにはいられない事情が蒼にはあるのだ。
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