第二章 蒼海の宴

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――もしも、この先の未来、産まれてくる子どもが女の子だったら。  陰陽少女――成人してからは陰陽之巫女。蒼がこの世に生まれたその瞬間から継いできた二つ名。  春日家の魂に脈々と刻み込まれてきた宿命。  月の神の加護と呪詛。  春日家において、女の子が産まれなかったという記録はない。  兄か弟が出来たとしても、必ず陰陽少女は生まれてくる。  その運命を絶つには一家を終わらせるしかないのだが。 ――それでも、やっぱり私はあの人と。  どの世代の陰陽少女も同じ気持ちだったのだろうかと自問して、「否」という自答が返ってくる。  かつて、どの男とも結ばれないまま、その身を世界に捧げた陰陽少女がいた。  自分も同じ運命を辿るのではないか――いや、自分の娘があるいはその先の世代がどんな道を辿るのか。それを考えると、今でも絶望しそうになることがある。  だが、彼が――あの男が傍にいてくれる。ただそれだけで、希望の光の一筋が見えてくるのだ。  少なくとも、自分は一人ではないのだと。  この気持ちを分かち合える人間がいるのだと……。 「こちらになります」   通路を渡り、いくつか階段を下りて行ったところの比較的狭い通路のドアの前で長嶋は止まった。会議室303と書かれている。特に怪しい気配は感じない。感覚を研ぎ澄まし、中にいる者の霊気を探る。中にいるのは一人だ。常人よりは強い霊気だが、霊術が使えるかどうかはわからなかった。 「……中の危険度は?」 「……五分五分ってところだ。入った瞬間に罠に掛かるってこともまぁ、無くは無いからな」  ひそひそと話す二人を長嶋が怪訝そうに見ている。どちらにせよ、入らないわけには行かないだろう。袖の下に隠した懐剣と刀袋を確認し、蒼は深呼吸。  真二もまた、袖の下に霊符があるのを確認してからドアをノックした。
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