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冷たい銃口が、蒼へと向けられる。引き金には指は添えられていないが関係はない。銃口は向けた時点で敵対行動と見なされる。
だが、蒼が反撃することはなかった。護身之太刀を懐剣に戻し、刀袋へとしまいこむ。いつも通りの穏やかな人の心を落ち着かせるような包容力を持った霊気を発しながら、「そう」と銀勇の慇懃無礼な態度に付き合う。
「それで、感想は?」
蒼の真っ直ぐな問いに、銀勇はフンと鼻を鳴らし、銃を引っ込めた。
「銃口を向けたことを後悔したくなるほどには、あなたの強さ、格の違いを思い知らされましたね。未だ自分が達したことのない境地にあなたはいるようだ」
「あなたは相当な天才だって噂で聞いたわ。対人戦では無類の強さだって」
その強さの秘密が何か、蒼は彼の戦い方からそれを察していた。
彼には霊術への拘りがないのだ。敵を倒せるのであれば、平然と近代兵器を用いる。だが、彼は対人戦における手数をまだまだ隠し持っていることだろう。
「私の“先祖”は鬼をも倒しましたが、その手段はなかなかに外道な方法でした。だが、汚かろうが、外道だろうが、勝てば官軍なのですよ」
「やれやれ、言い方を考えろよ。その外道な方法が大好きなお前と俺は組んでいたんだからな」
「昔が懐かしいですね」
頭を抱える真二に、銀勇は意地の悪い微笑みを送った。三人の会話は表面だけ取れば、さざ波さえない穏やかそのものに聞こえるが、果たしてその水面下ではどんな怪物がうろついていることか。蒼は二人の表情をそれとは分からない程、自然に観察していた。
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