第二章 蒼海の宴

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 ドーマン。それは縦四本、横五本から成る格子模様、九字を切る祭に出来る印のことだ。安倍晴明の印とされるセーマン桔梗印とは対称的に、ドーマンは芦屋道満の印であるともされているが、陽の界にて、それに関する記述は残っていない――いや、“彼”が残らないようにしたのだ。  彼は道満に関する逸話を多く世に流した。真実もあれば偽りも流した。そうすることで、道満の存在を曖昧にしたのだった。  第二の道満が生まれぬようにと、お伽噺の中へ道満という存在を封じ込める。ある意味では、現実味を帯びた呪いであった。  だが、それでも陰陽師達――特に在野の――の間では、道満の伝説は脈々と受け継がれていった。彼の技、術に心酔し、尊敬の念から信仰に近いものへと発展させた者も数多くいた。  その信者は、時代時代によって違うものの、その時々の権力者と敵対関係にある者の中に特に多かったと言われている。  現代においては、その傾向は弱くなっているものの、全くないわけではなかった。銀勇が言ったように、陰陽師の使う霊術の源である霊力は一般人には理解も知覚もできない。加えて、術者によって程度の差こそあるものの、戦闘や破壊工作などに用いるのには十分すぎるほどの力を持っている。  権力、金、人員――、打ち負かしてやりたいが、自分だけではどうにもならない相手に対して、呪詛を用いる。それが平安時代から連綿と受け継がれてきた負の連鎖だった。  その象徴とも言えるのが道満であった。
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