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島は穏やかそのもの。風に混ざって人々の笑い声と足音が流れていく。白と青の波が寄せては返す。日差しを浴びてビルが銀色の光を浴びて光り輝く。
海の上に聳え立つ幻想の城。時の流れをも忘れそうになるほどの平穏。
ただ、それも先程見た狂騒を思うと、素直に受け入れられそうにない。
偽りで固めた平穏、犠牲を踏み台にした繁栄。
それらをよしとしない者の殆どは、平穏も繁栄も享受できなかった者達である。
ここ、竜宮の建設には、栃煌市の最南部に位置する漁村の住民から、激しい反対があった。多くは地元で長く漁を営んできた老人達である。
伝統ある漁業の妨げにはならないよう“最大限の配慮”をするという説明は何度か、企業側からされてきたと報道されていたものの、その“最大限の配慮”というものの具体的な内容が、説明されることはなかった。
――ワタツミ様の天罰下るぞ。
こんな捨て台詞が出たのは、竜宮の着工が始まってからしばらくしてからのことだった。当然、そんな言葉を上は勿論、仕事場の者達が気に掛けることは無かった。
――神の住まわう上に島なんぞ、作りおって。全員海の底に沈められてしまうぞ。
言葉が段々とエスカレートし、公共の電波には乗せることさえ安易に出来なくなった後も、着工は進んだ。
そして、完成してしまった。
「刀真君、ちょっと刀真君?」
横から突かれて、渡辺刀真の思考はそこで妨げられた。妨げた相手は、さらさらと流れるような長い髪に、翡翠の光沢を放つ数珠で結んだ女性だった。細長い瞳と白い肌は、どこか冷たい印象を与えるが、彼女と少しでも付き合いのある者ならば、それが間違っていることに気付くだろう。
「氷雨」
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