第二章 蒼海の宴

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 因みにその手紙には、霊具でもある筆――言霊之筆を用いており、内容はリーダー本人以外には見えず、また読んだ内容を他人には漏らすことができない言霊の呪が掛けられている。  故に、リーダーがこちらの言ったことを本気で受け取らないというような心配はない。信用されるかどうかは別として。 「そのリーダーが事件となんの関わりも無かったらどうするつもり?」 「人為的にせよ、自然発生にせよ、怪異には負の霊気が欠かせない。外にはこの都市への怨嗟が渦巻いている」   最初はこの都市そのものに対する恨みでは無かったかもしれない。だが、それも時が流れるにつれて変わってきた。怪異を引き起こしている連中が煽ったのか、それともデモを起こしている人々が黒幕なのか。それはまだ分からないが、なんら関わりがないとは考えられないだろう。 「それに、ワタツミという単語も気になる」 「まぁ、そうね。海に面した土地だし、デモ側がそれっぽいこと言ってる可能性もあるけど」  ワタツミとは、海の神のこと、転じて海や海原を指す。ワタは海の古語、ツは「の」、ミは霊を表すため、転じて海の神霊という意味である。  古くは古事記や日本書紀にも記載があるものの、書によって表記が違っている。ヤマト政権が出来る前は海洋民の祖神であったとする説もある。  現陰陽寮においても、ワタツミの存在は海の神として認識している。ただし、その存在は、ひとつの神霊からではなく、複数から成るものとされている。  月の神や日の神の存在のように、呼ぶ者によって名が変わるわけではなく、複数の「ワタツミ」という霊気によって形成される存在。  ただし、陰陽師にとっても「ワタツミ」は、神霊は、認知することさえ困難な存在だった。今のところ、「おおよそこういうことであろう」という推測を立てる程度であり、はっきりとしたことはわかっていない。
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