第二章 蒼海の宴

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 そのため、今回出てきた「ワタツミ」という単語にも、現陰陽寮は半信半疑といったところだった。デモに参加している年配が言っているだけか、それとも霊術者達によって何かを吹き込まれているのかもしれない。  前者の可能性であれば、無視することもできた。だが、後者の可能性だった場合、敵になんらかの意図があることになる。霊術者達がデモ参加者達の負の気を利用しようとしているのは、明らかだが、それだけではない何か目的があると考えるべきだろう。  あらゆる可能性を考えつつも、刀真はこれから出会うデモ集会のリーダーの事を考えた。  葛島伊吹(くずしまいぶき)それがリーダーの名だった。年は二八とデモのリーダーにしては若い男だった。そう思う刀真の方が五つ下ではあるのだが。  陰陽師にとって年齢は才能を測る物差しになるとは限らない。力が開花するタイミングが個人によって異なるからだ。それに陰陽師の殆どが、物心がつく以前から陰陽師としての鍛錬を積まされている。  あくまで霊力を使う技術に限った話で言えば、子どものうちにその技の殆どが完成するのである。 「で、密会の場所はこの先のお茶屋さん? 古風ねぇ」  氷雨が指差す先に、この都市にはあまり似つかわしくない茶屋があった。和菓子やお茶を出す店で、個室もある。  時間的に、菓子よりも蕎麦か何かで腹を膨らませたい気分だったが、相手がここを指定してきたのだから仕方ない。 「入る前にお願いあるけど、いい?」 「なんだ」 「私、抹茶パフェね」  一瞬、氷雨が何を言っているのか分からず、立ち止まって彼女の期待に満ちた笑顔を見つめた。それからゆっくりと財布の中身を確認する。 「生憎と金欠だ。食べたければ、自分で注文しろ」
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