第二章 蒼海の宴

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 葛島の質問に、刀真は率直に答えていいものかどうか、一瞬悩んだ。が、葛島の表情の中にある感情が核として作られているのを見た。それは覚悟のようなものだが、先ほど見てきたデモ集団が見せた気概とはまた別の種類の覚悟だ。 「固い決意が見て取れた。だが、同時にあれを続けていても、孤立していくだけだろう」 「せやねぇ。まさにウチもそのことが不安なんだわな。けど、皆は諦めんだろう。“竜宮”が出来る前――俺らの村――天海村(あまみむら)は古くから続く漁村だった。それが、バブルの影響なのかどうかは知らんけど、バカスカ立つ金持ちの建物のためだけに、長く続いてきた伝統を奪われるのはごめんこうむるってな」  君は違うのかという質問は胸の中だけに留めた。違う筈がない。そうでなければデモの先頭に立つリーダーの役割につくわけがない。 「ただ、何かに声上げて立ち上がる連中ってのは周りから白い目で見られるもんなんやなぁとつくづく思う。テレビだの新聞だのですぐさま取り上げられる。それを見て、色々な連中が色々な憶測立てる。実はこんな意図があるんじゃないかとか、実はテロでも企ててるんじゃないかーとか……あとは、誰かに呪いを掛けようとしているんじゃないかと疑う奇妙な連中もいるな」
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