第1章

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そして翌朝といっていいのかわからないが、なにか少し切なかった記憶だけがあ る夢の後で「ねえ!ねえってば!!ちょっと!!」という大きな声と、腰のあた りに何かがぶつかる感覚に目を開けて、横向きの体勢から体をひねりながら上半 身だけ起き上がると、JCが僕を軽く蹴りつけながら、ホテルの安っぽい薄ピン クのガウンだけを着て目の前に立っていた。 「つかもう11時!時間延長してんだけど?金かかるけどいいわけ?」 その言葉に僕が、あくびをしてから大きく酒臭いだろう息を吐いて「いいよ、ま だ金は余裕あるし、つかまだ無理・・・。寝る・・・。」ともう一度そのまま床 の上に同じ体勢で寝転がろうとすると、JCはまた僕の腰を蹴り「いや起きろっ て!つか腹減ったし!自殺くんマックおごってよ!」と僕のパーカーのフードを 掴んで座る体勢まで引きずり起こした。 「はぁ・・・?マック・・・?ていうか腹減ったならそこのメニュー見て勝手に 注文すりゃーいいじゃん・・・。」 とまたあくびをかみころしつつ頭を掻きながら僕は言ったが。 「うっわなにこれ!?これ全部飲んだわけ!?引くわー・・・。ってまあいいや つかいまマックの気分だし。つか1時から予定入ってんだよね。だからそろそ ろ出るし」 などと当然のように主張し、けして軽くはない足取りでベッドの方に歩いていっ てそこに体を投げ出すと、そのままいつものようにあぐらをかいて、途中らしい メイクに夢中になりはじめた。そこには昨夜とは違う、どこにでもいそうな14 歳らしい顔が注意深く手鏡に見入っていた。 「予定・・・?なんの・・・?やっと友達つかまったわけ・・・?」 「は?ちげーし。つか月曜だし無理っしょツレはこの時間。おじさんおじさん。 自殺くんと一緒。知らないおじさん。まぁ自殺くん意外にイケてるし、今日の はもう少し年上だけど。」    「ああ・・・。なんだ・・・。客か・・・。」と言って立ち上がりTVの下の 冷蔵庫からビールを取り出していると「はぁ!?客ちげーし!!援助だし!!た だの!!っざけんな!!」という鋭めの声が返ってきて振り返れば、鏡から目を 離したJCのジットリと刺さるような視線があった。
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