第1章

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そして午後1時。僕は〇〇駅と片側1車線の道路をへだてた、あるビルの1階に 入っているコンビニの前で、座り込んでビールをすすりながら、遠くに小さくキ ョロキョロしているJCをジッと見ていた。 喉を通過していく炭酸が、2月の澄んだ冷たい空気をすりぬけて包み込む、期待 もしていなかった小春日和の日差しににここちよく、迫るように僕を取り巻く社 会との間に、やっと一枚ぼやけた薄い膜をはってくれた酔に、僕は感謝しつつ、 いつものように、いつからこんなふうにしか、ただ存在し呼吸していることすら 出来なくなったのか・・・などと、そんならちもないことを、頭の底の方のすみ っこで考えるともなしに考えていた。 最初はただ一日を終わらせるスイッチだった。そのような世界にそのように生ま れたからには当然とでもいうように、お空の誰か様がもう飽きたみたいに、どう でもいい単調が無機質に回っていくだけの日々なのにもかかわらず、常に誰か、 それとも何かに、素肌をヤスリで撫でられるような、そんな削られていく毎日を リセットし、全身にできた鈍い擦り傷をなかった事にするために、夜の1~2杯 が必要だった。 しかしそれは歳をとるごとに次第に増えていった。そのうちに酔ってぼやかせて いなければ眠れもしない何かに、いつも頭を鷲掴みにされているようになって も、それでも僕は深く考えようとはしなかった。なぜなら、生きていくというか ぎり皆がそうだと思っていたし、いつも「ここが底だ。流れ流れて落ちるところ まで落ちてきた、ここを乗り切ればあとは上がっていくだろう」と考えていた。 けれど底だと思っていた、溶けたアスファルトのように足を取られる日々の先に は、毎回さらにもう一つの底が待っていた。
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