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そして僕はおもしろいように簡単に、その全ての崖っぷちを簡単に流れ落ちた。
いつだってどん底だと思って歩く暗闇には、予告もなく滑落する更なる底が存在
して、そうするうちに僕は飲むべきでない時に隠れて飲むようになった。帰れる
気がしないサービス残業の前に耐えられずポケット瓶から少し、緊張するプレゼ
ンの前に少し、興味が持てないうえに出来もしない仕事の午後のためにグラス1
杯。成績の上がらない僕に対する上司のネバつきにポケット1本、そして、そん
な僕を見る年下社員の目線に、無意識にないがしろにされる態度に、すこし違和
感のあるように見えてしかたない微笑みに、普通の会話中のふとした眉間のしわ
1本に。ついに僕は酔っていないと朝の玄関を開けられなくなった。
それからはもう急流に流されるがままだった。会社を辞め、コンビニバイトを辞
め、日雇いバイトも行くこともなくなり、実家の部屋に舞い戻ってこもり、病院
に救いを求め続けて薬は増えたが酒量は減らなかった。そして僕は今ここにこう
していた。なぜこうなったのだろう?どうすればよかっただろう?という当たり
前の問に過去の記憶には何の引っかかりもない。どんな「もしも」も指をかける
とっかかりさえつかめない。そしてもどかしさが流れ落ちた最後に、このある必
要はないが無くなる必要がさらに増える予定の脳には、とある想像の映像がいつ
もよぎる。赤くて肉々しく狭くてながい横穴。くぐり抜けてきたであろう産道。
しかし、その時。見つめている先に、若くてまだ産道でない穴を求めているらし
い、とある男がJCに近づくのが見え、僕は渦巻いているグルグルを振り払うよ
うに少し頭を振ると、500mlが5本入ったコンビニ袋とダッフルバッグを手
に持って立ち上がり、ぎこちなさそうに簡単な挨拶らしきものを交わした後に、
微妙な距離を維持したまま歩いていく2人を、さらに少し用心深すぎるくらい距
離をとってあとをつけはじめた。
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