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「きこえてんじゃん・・・。つかお兄さんなにしてんの?マジで飛び降りる系
なわけ?ていうか迷惑なんですけど。」
女性は、手元でふわっと光り始め顔を照らしだしたスマホに目を落としたまま
で、まるで「犬が四本足であるいてるよ!!」と言われでもした時のような関心
の無さでそう言いながら、やはりこちらに視線を上げることなく、右手で頭をボ
リボリ掻いた。
それにはいくら酒と薬に濁った僕の頭でも少し驚いた。勿論、こんな時間のこん
な場所に誰かが来るなどと思わなかったし、それに、もし誰かに止められるにし
ても、こんな風にぞんざいに扱われるとは思ってもみなかった。
「え?ああ・・・。まぁそんな感じかなぁ・・・。」
「つか、そこからどいてほしいんですけど、マジ迷惑」
「ははは。なに?落っこちそうでこわいの?ほーら揺れてるよー落ちるかもよ ー!」
だが、そうやってグラグラ揺れてみても、女性はスマホに指を滑らせるばかり
で、こちらを少しも見ようとはせず。
「は?しらねーし?つかカンケーないし。とりあえず目立つからそこどいてくん
ない?やるならどっかよそでやってよ。」
と言うと、やっとスマホをバッグに投げるように入れ、立ち上がってツカツカと
こちらにやってきて、フェンスに両手をつけながらビルの下の地面の方をキョロ
キョロと見回した。見上げてみるとその女性は背丈はそれなりにあるが、お世辞
にもあまり整っているとはいえない顔つきには幼さが残っていて。「なんだまだ
子供じゃん。もう夜中だよ?家帰ってねなよ」と追い払おうとしたが、次の瞬
間。
「だからそこどけっつってんの!」と言いながらフェンスの隙間から右腕を突っ
込んで、僕のダウンジャケットを掴むと、思いっきり引っ張って、僕を足元まで
引きずり下ろした。
「いった・・・。なにすんだよ。」
「つかさっき補導されかけて逃げてきてんだよね。だからさっきから迷惑だっつ
ってんの。んなとこにいたら目立つし警察くんだろ!?」
そしてフラフラした体をひっくり返された僕は、頭をフェンスにめり込ませた
まま、噂通りに雲がなくても星の少ない東京の夜空を見上げながら「なるほどー
そういうことかー」とつぶやいた。
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