第1章

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そう言うと少女はスマホをバックに入れて担いで立ち上がると「いいよ。つかも う早くいかね?たいがい疲れたし・・・。」と言って一瞬こちらに視線をなげる と、そのまま並んだ大きな室外機の横の出口の方に歩いていき「おい!ちょっ と!待てよ!」僕はフラフラそしてノロノロとダッフルバッグをフェンスの内側 になげると、まだ酒の入っているコンビニ袋を抱えながら不格好に、もう戻るこ ともないといいな、と思って乗り越えたフェンスを「死」の手前なる所から「な まぬるい生ともよべないもの」などと呼んだものの方へ手足をかけて登り、そし てその足を滑らせて内側に転げ落ちた。 それから翌日の昼まで、僕達の間にはほとんど会話らしい会話はなかった。あえ て取り上げるとすれば僕の「ていうかなんて名前?」という今更の質問に少女は 「は?なんでもいいし・・・。好きに呼べば?」と答え、「じゃあ中学生だから JCって呼ぶわ」などというやり取りくらいで、JCは僕のことをなんの承諾も 確認もなしに、いつのまにか「自殺くん」と呼んで「自殺くん、先、風呂入って いい?」みたいな必要最低限に事務的な会話だけをポツリポツリと交換しただけ だった。 ラブホテルまでは、警察の職務質問を警戒してか、JCが勝手に「〇〇区〇〇町 の〇〇建設会社まで1台」と電話で呼び寄せたタクシーで移動し、そのままビニ ール製のあの例の、地面につきそうなほどに長いノレン状の目隠しの中に乗り入 れるまで、JCは窓の外をぼうっとみつめながらうつらうつらしており、それか らタクシーを降りてホテルの自動ドアをくぐりぬけ、ひと部屋だけ空いていた空 室の部屋にはいると、そこには広めの普通のラブホテルの部屋の奥に、なんだか 産婦人科の分娩台を思わせるような、不気味に少し卑猥な鉄製の椅子が備え付け られていたが、しかしJCはそんなモノは見飽きたか目にも入らないように、さ っさと風呂に入るとすぐに無防備な寝息をたて始め、僕はそれを背中で感じつつ TVの前に座り込んで酒の残りを飲みながら、いつのまにかそのまま少しだけ眠 ったようだった。
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