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ワコは昨日、家族と別れたばかりだった。
夜はいつの間にか明けていた。
夜というのはなぜこんなに寂しくなるものなんだろう。
二十畳ほどの和室、まわりの、布団で眠っている子たちの寝息はほとんど気にならなかった。
それよりも、世界でたった一人のような気がした。
なぜ、こんな、おとうさんやおかあさんの住んでいる「いえ」よりも、とても遠いところに来なくてはならなかったのだろう。
もし、ずっと泣いてばかりいたら。
誰かがかわいそうだと思っておかあさんに電話してくれるかしら。
そんなことはないな。
ワコの心のどこかで、そう誰かが言った気がした。
そんなに簡単に解決することだったら、そもそもワコは「ホーム」に入ることはなかった。
「いえ」の近くの小学校に、車いすに乗って通えたらいい話だったのだから。
通えない理由があったから、「ホーム」で暮らすことになったのだ。
あんなに泣いていたはずなのに、ワコはぐっすり眠ったらしい。
さびしさの中でも、簡単に眠ってしまった。
明るくなった部屋を出て、顔を洗いに洗面所に這っていった。
まだパジャマのままだった。
体の小さなワコは、洗面台のふちにつかまり立ちをして、水道の水に顔をつっこんで、洗顔したふりを決め込もうと思っていた。
共同の洗面台は、まるで学校に設置されてあるもののように、幾つも蛇口がついている。こどももおとなも、みんなが使うところだ。
ワコが、水道から出る水にどうにか顔をつけようとしているところへ、車いすをこぐ音がちかづいてきた。
その音はワコのそばで止まった。
と、信じられないことが起こった。
ワコは、パンツの中に手を入れられたのだ。
何が起こっているのかわからないワコは、瞬間泣くところだった。
そのとき、頭の中でこえが聞こえた。
「男の子に言いなさい。泣かないで言いなさい」
なに?
と思うまもなく、頭の中の声は言った。
「『おにいさん、パンツにの中に入れた手を離してね』」
ワコが言おうとすると、すかさず頭の中の声は言った。
「ワコ、大きな声で言いなさい! 何度も何度も言いなさい!」
「おにいさん、パンツのなかにいれた てを はなしてね!!」
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