星に抱かれて

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 ワコのベッドは窓際にあった。木枠のガラス窓には薄いカーテンがかかっている。  恐がりのワコは、『小さな母』の言葉に、なぜ今、と思った。また、夜になった窓の外はみたことはなかった。  そっとカーテンの向こうをのぞいてみた。  星だ。  よく晴れた夜だった。窓の向こうは星がきらめいていた。  すーっと手を伸ばすと、星の中へ意識が吸い込まれるようだった。  山のきれいなこの地域は、星も天の川も見える。 「夜はたいていは、明るいんだ。見上げたらいつも、お星さんが住んでる」  せっかく窓際で眠れる場所なのだから、暗くて怖いときは外を見なさい、と『小さな母』は続けた。 「星がこんなに見えるなんて、すてきなことじゃないか」  ワコは最初は気がのらなかったけれど、それでも『小さな母』のすすめの通りにカーテンを少し広げて窓の外を見続けた。  星たちの名前はまだ知らなかった。何も知らないどうしなのに、大きくひかる星々は、窓ガラスを通り抜けてワコの肩や袖にダイヤのような輝く印を残してくれた。 「月の涙って呼んでいるのよ」  ある星のこえが聞こえたような気がした。 星の声は、すっとワコの心に入り込んできたのだった。 「本当は私たちはそれぞれ、お互いに確認できないぐらい遠くで輝いているの。私たちひとつひとつは、あなたがいつも昼の時間に見ている、太陽のような存在だから」 「ひとつひとつがたいようなの?」 「遠いから、そんなことわからないでしょう。ワコちゃんは地球にいるから、私たちひとつひとつの光の歴史が見えるのね」 「ひかりのれきし?」 「そう。光の歴史。ワコちゃんが見ている私たちの光は、もうずっと昔の昔に私たちが放ったものだから」  星はそうやさしく、ワコの心に話しかけてくる。 「時々でいいから、こうして私たちの光を見てね。それだけでとても嬉しいの」 「なぜ?」 「誰かが忘れないでいてくれるということは、誰にとっても、勇気が出ることなのよ」  ワコは、星に質問したくなった。 「ほしさんは、ひとりで、さびしくないの?」
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