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星は少し黙ったけれど、すぐに話し始めた。
「さびしいと思うときには、ワコちゃんのように、月の涙を見せてあげたい人を探すの。ワコちゃんみたいに、全身で喜んでくれる人に出会えたら、とても幸せだから」
「おかあさんが、そばにいなくても?」
星は、ゆっくりと、ワコに聞いた。
「ワコちゃんは寂しいのね? 」
ワコは何も言わなかった。
さびしい、といってしまったら、大声で泣いてしまう気がしたから。
「ワコちゃんはまだとても小さいこどもなんだから、泣いた方がいいわ。おとなになるまで、時間があるから」
それでもワコは何も言わなかった。
「今日はがまんしたいのね」
星は、微笑むように瞬いた。
ワコは、なんて答えていいかわからなかっただけだった。星はワコにとってとてもやさしくて心地よかった。
「ちょっと難しいけれど、やってみて欲しいことがあるの」
「なあに」
「泣いた後に、なぜ泣いたのか、少し考える時間をとるの。何がかなしかったのか、何がつらかったのか、とかね」
「むずかしそう」
「泣いた後に考えてみる癖をつけると、おとなになってもうまく泣けるようになるから。」
「ほしさんはおとな?」
「うん。月の涙を配るおとな」
ワコはしばらく星と話していた。
こどもは、いろんなものと話ができる時があるようだ。
星のくれた「月の涙」は、いつまでもワコの服にきらきらとかがやき、停電が怖いことなんて、その夜はすっかり忘れてしまった。
『小さな母』はいつの間にか、小指から消えていた。ワコが星との会話に夢中になっていたから、『小さな母』も自分の家に帰ったのかも知れなかった。
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