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「お疲れでしょう?さぁさぁ、力をお抜きになって。あたしが肩を揉み解して差し上げますから」
一枚石の上に一人の石工がうつ伏せになっていて、蕩けるような声で女が話しかけながら、その背中に覆い被さっている。茶酌み女だとしても異様な光景であった。余程気持ちがいいのか石工は、半分眠りの世界に誘われてしまっているのだが、着物をもろ肌に脱いだ背中の皮が剥けて血塗れになっている。よく見ると、地面で気持ちよさそうに眠っている石工たちの背中は例外なく、血で真っ赤に染まっていたのだ。
「ねぇさん。今度は俺にやってくれないか」
男がかけた声に振り向いた女は、恐ろしく美しい容貌をしていた。その顔の中心に、惜しげも躊躇もなく素槍の穂先が突き刺さる。
じゃらん。
錫杖の卒塔婆形部にぶら下がった幾重もの輪が、重い音を発てる。
ぱ、ぱきん。
遅れて、人体では到底あり得ない硬質な音が石切り場に響いた。続いて、さらに重い音。槍で顔を貫かれたはずの女の姿は瞬時に跡形もなく消えており、石工が上で眠る一枚石が真っ二つに割れている。
「やれやれ。もう一仕事だ」
先端に槍が仕込んであったらしい錫杖を、男は慣れた仕草でくるりと回転させて元の形状に戻す。やがて、次々に目を覚ます負傷した石工たちの手当てを始めた。
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