落ちない砂

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 いつもと変わらぬ、図書館内。  受付の女子職員。論文をまとめている大学生。新聞を読んでいる初老の男。児童書コーナーには、多数の親子連れ。  いつもと変わらない……汐莉の姿がない以外は。  穏やかな、時間の流れ……けれど、いつもいるはずの人間がいないだけで、まるで別の世界に迷いこんだような気がしてしまう。  永遠に覚めないような、悪夢を見ているようだ。  ユニバーサル・クリエーターを読もうと、いつものように文学コーナーへと来る比呂樹。  ーあれ?ー  汐莉が最後に読んだ、四巻がなくなっている。  だれかが借りたか、いまここで読んでいるかの、どちらかだろうが、この本を読んでいる汐莉以外の人物を、比呂樹は見たことがなかった。  急いで閲覧室へと行くと、比呂樹の見たことのない女のコが、テーブルでその本を読んでいた。  その、女のコは芽衣だった。  だが、比呂樹は芽衣と会ったこともない。いきなり、この図書館で、いつも汐莉が読んでいる本を、芽衣が読んでいることにたいして、かなりの違和感を覚えた。  いつも汐莉が挟んでいる、しおりをはずしてページを捲っている芽衣にたいして、比呂樹は微かに憤りを感じていた。  まるで、汐莉がいない代わりに、この本の続きを読んでいる……芽衣がそんな態度で、比呂樹に当てつけているような気がした。
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