時の拘束

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 古い町工場が軒を連ねた路地の一角に、花やお菓子が手向けられている。  その場所にいる比呂樹……手を合わせている。  汐莉が殺害された場所。  ここへは、汐莉の両親と比呂樹以外は、ほとんどやってこない。  まだ、犯人は捕まっていない。汐莉のクラスメイトも、ここへは不用意に近寄ると危険だと、学校から通達されている。  ただでさえ、友人の少ない汐莉である。彼女の担任ですら、一度来たきりで、あとの学校関係者は比呂樹以外、だれも来ていない。  生前、汐莉は時間に拘束されることを、極端に嫌っていた。  友達を作ると、放課後、自分の自由な時間が持てなくなる。  図書館で、自分の好きな本を読む時間……それがなくなってしまう。 「たった一度きりの人生でしょ? 自分の自由にならない時間なんて、ムダな時間じゃない」  確かに、比呂樹にもそういうところはある。  学校では休み時間以外、自由になる時間はない。  家にいれば、親から何かと用事を言われる。掃除や買い物。暇なら勉強でもしてろと、口うるさい。  あまり、仲のいい友人もいない。誘われれば断らないが、自分からは関わろうとはしない。  汐莉はさらに、比呂樹の上をいっている。  放課後は、必ず図書館に独りでいる。  学校にいても、だれとも仲よくしようとしない。  だから、"変わり者"と言われてしまう。
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