消えた笑顔

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 放課後、教室を出た比呂樹は、ひとりトボトボと廊下を歩いていた。  中学二年。部活動も塾にも行かない。放課後の楽しみは、学校近くの図書館に行くことだけだった。  それも、比呂樹の隣のクラスにいた、前園汐莉がいたときまでの話だった。  汐莉は、四日前の放課後……図書館からの帰りに通り魔に刺されて、命を落とした。  犯人は、いまだに特定されていない。学校周辺や図書館付近は、厳重な警戒体制がしかれている。  比呂樹が汐莉と知り合ったのは、中学の一年のとき。比呂樹の学校には、運動部はそれなりにあるものの、文化部がブラスバンド部しかない。文芸部を希望している比呂樹は、どこの部にも入らず、放課後は暇を持て余していた。  ある日、たまたま立ち寄った図書館に、汐莉はいた。同じ学校の制服を着ている汐莉に、比呂樹は興味を持った。  閲覧室で、小説を読んでいる汐莉……。彼女はいつも同じ場所で、同じタイトルの本を読んでいた。
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