消えた笑顔

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 汐莉を見かけるようになって、一週間が経ったある日、比呂樹は読書中の汐莉に接触を試みた。 「こんにちは」  ぎこちない、挨拶だった。  顔を上げ、比呂樹に目を合わせる汐莉。 「どうも……」  比呂樹を不思議そうな顔で見つめる汐莉。 「いつも、その本読んでるけど、おもしろい?」 「……」  本の横にある、ウサギの絵のしおりをはさみ、汐莉は比呂樹に本を差し出す。 「他人の意見を聞くより、ご自身がその目で確認するほうのが確実だと思います」 「え……!?」  そんな答えを期待していなかった比呂樹は、呆気にとられる。ただ、汐莉に話かけるための、取っ掛かりだった。 「確か、F組の鹿沢さんでしたね」 「あぁ、うん……キミは、E組の……」 「前園汐莉です」 「うん、よろしく……」  比呂樹は、汐莉が持っている本を、受け取ることを、ためらいつつ答える。  比呂樹が本を受け取らないのを察して、汐莉は再び、しおりを外してページをめくる。 「ごめんなさい、読んでる途中の本を、渡したりして……同じタイトルの本あるから、そっちを借りてください」 「うん……ありがとう……」  苦笑いを返す比呂樹。
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