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「この期に及んで俺の子じゃないとか言うつもり? そんなわけないでしょうが」
先輩と岩井田さんの間に何もなかったということは、岩井田さんから聞いてはっきりしている。相良によると、先輩はあと少しで安定期に入るところだという。こんなことを言うのはなんだが、計算も合う。子どもの父親は俺で間違いない。
尚も言い逃れようとする先輩に強い視線を向けると、とうとう観念したのか、先輩はようやく事実を認めた。
「黙ってて悪かったとは思うけど……でも、私子供を堕ろすつもりはないから。あの日だって私から誘ったんだし、これからのこともちゃんと考えてる。私が勝手に決めたことだから、上村は気にすることないのよ……」
俺のことを思ってのことかもしれないが、先輩は初めから、俺不在の未来しか描いていなかったのだろうか。それとも、俺では父親として不十分だと思ったのだろうか。
いずれにしろ、何も知らされなかったことに俺はひどく傷ついている。そのことに、先輩は少しも気がつかなかったのだろうか。
「……あんた、バカか」
「なっ!?」
「なんで妊娠したこと俺に言わないんだよ。違う男から聞かされる俺の身にもなってみろ」
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