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目の前には、タンカレー。俺は、店の照明を受けて輝く透明なグラスを見るともなく眺めていた。
グラスの酒を一口含み、目蓋を閉じる。強いアルコールが喉を滑った途端、あの人の姿、声、そして、俺だけが知る彼女の泣き顔が次々に脳裏に甦った。
今この瞬間も、俺の心はあの人に囚われている。隣には別の女が座っているというのに。
それでも、未だ不確かな感情がはっきりと形を持ってしまうことを、俺は怖れていた。
「上村さん、本当は疲れてるんじゃないですか? このところずっと、レストランHiraにかかりきりだったし。今日はもう、帰りましょ――」
――だから俺は、差し出された手を取った。
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