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「涼香」
涼香と過ごすことで、あの部屋で過ごした日々を上書きしたい。
あの人のことを、頭の中から全て消し去ってしまいたい。
「この後……君の部屋に行ってもいいかな」
あの人のことを忘れるためには、そうすることが最善だと思ったんだ……その時は。
「……いいわ」
涼香が俺の手を握る手に力を込めた。
「応えてくれて嬉しいわ」
これでもう、引き返すことはできなくなる。
逃げたんだ、俺は。まだ手に入れてもいないのに、失うことを怖れて逃げ出した。
もうこれ以上、俺の心の中があの人で埋まってしまわないように。
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