reika~麗香~

2/11
前へ
/12ページ
次へ
二人の呼吸が重なる距離。 「……そう、いいわ。そのまま、ゆっくり進めて……」 彼の腕に指を添える私は、感覚を研ぎ澄ませながら耳もとで囁く。 「相川先生…いいですか?」 「ええ、そのままで大丈夫よ。……あっ、少しだけ引いて」 位置を探りながら奥へ奥へと進むその先端に、彼の神経が集中する。 彼の額にじわりと滲む汗。 「先生、行きます」 不意に、彼が低い声を落とした。 「えっ!?」 「見ててください。ここからは僕だけで行けますから」 彼の肘で押されるように振り払われた、私の手。 なっ、僕だけで行けるって!? 「ちょ、ちょっと。新堂くん!?」 私は視線を上げ、彼の横顔を凝視する。 「カテーテル冠動脈内に到達完了!造影剤注入開始!」 「開始って、なに勝手に指示出してんのよっ!」 次の瞬間、彼の号令で検査室の照明が一斉に落とされた。 カテーテルの先端から放たれた造影剤が、血液の流れに乗り開花するように広がって行く。 愕然とする私。 ただ祈るようにモニター画面を凝視し、ゴクリと生唾を飲む。 「心筋、各弁、冠状動脈に病変なし。相川先生、心臓カテーテル検査は無事完了ですね」 そう言って、彼は「してやったり」と言わんばかりの満面の笑みを浮かべた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2100人が本棚に入れています
本棚に追加