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二人の呼吸が重なる距離。
「……そう、いいわ。そのまま、ゆっくり進めて……」
彼の腕に指を添える私は、感覚を研ぎ澄ませながら耳もとで囁く。
「相川先生…いいですか?」
「ええ、そのままで大丈夫よ。……あっ、少しだけ引いて」
位置を探りながら奥へ奥へと進むその先端に、彼の神経が集中する。
彼の額にじわりと滲む汗。
「先生、行きます」
不意に、彼が低い声を落とした。
「えっ!?」
「見ててください。ここからは僕だけで行けますから」
彼の肘で押されるように振り払われた、私の手。
なっ、僕だけで行けるって!?
「ちょ、ちょっと。新堂くん!?」
私は視線を上げ、彼の横顔を凝視する。
「カテーテル冠動脈内に到達完了!造影剤注入開始!」
「開始って、なに勝手に指示出してんのよっ!」
次の瞬間、彼の号令で検査室の照明が一斉に落とされた。
カテーテルの先端から放たれた造影剤が、血液の流れに乗り開花するように広がって行く。
愕然とする私。
ただ祈るようにモニター画面を凝視し、ゴクリと生唾を飲む。
「心筋、各弁、冠状動脈に病変なし。相川先生、心臓カテーテル検査は無事完了ですね」
そう言って、彼は「してやったり」と言わんばかりの満面の笑みを浮かべた。
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