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「麗香…っ…」
彼が熱で浮かされるように私の名を呼び、漏れ出す私の吐息を塞ぎ深い口づけを繰り返す。
恋人でもない。セフレでもない。
いつも側に居たのに、男として近くて遠い存在だった人。
……違う。
本当は、心のどこかで意識していても、それに気づかないふりをしていただけなのかも知れない。
「…っ……はぁ……蓮…」
快感に伴うのは、愛しさと切なさとが交じり合った複雑な想い。
彼は跳ね上がる腰を押さえつけ、私の深くに覆い被さる。
今だけでいい……
「ああっ……いいっ…ぁ…蓮……もっと…」……深く、私の中に来て――
「麗香…っ…一緒に…」
灼熱感が重なり合い、脳髄には蕩けるような快感が駆け上がる。
「……はっ、ああぁ……!」
最奥で弾ける熱。
目の前は音のない白い世界で染められ、私達は互いの熱の余韻に身を委ねた。
――――――
病院の屋上に広がるのは、どこまでも続く青硝子の様に澄み切った空。
「新堂くん、今頃ボストンの大学院で頑張ってるかな」
真珠色の光が差す空を眺め、私の隣に座る亜紀がぽつりと言った。
「…きっと、あっちの指導医に叱られながら、なんとかやってんじゃない?」
私は缶コーヒーから口を離し、親友の眺める空に視線を向ける。
「私さ~、麗香と新堂くんって良いパートナーだと思ったんだけどな~。本当は、好きだったんじゃない?彼のことっ」
親友はニヤケ顔して私を覗き込む。
「まさかっ。坊やには興味無いわよ。肩の荷が下りて、ついでに肩こりも良くなったわ」
気のない素振りで軽く笑い飛ばしベンチから立ち上がると、手すりに肘を置き、空を仰いで瞼を閉じる。
うららかな春の風が頬を掠め、芽生えたばかりの新緑の香りが鼻腔を擽る。
閉じた瞼に浮かぶのは、見知らぬ遠い街の見知らぬ病院で、白衣を纏い闊歩する彼の後ろ姿。
いつかまた、
医師として、男として、大きく成長したあなたと会えますように……
藍を溶いたような美しい空を瞼に映すと、心から溢れ出るように柔らかな笑みが零れた。
―――――― End ――――――
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