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「新堂くん!あなた一体どう言うつもり?研修医が指導医の手を離れ、勝手にカテのオペレーターするなんて前代未聞よっ!」
カンファレンスルームのテーブルをバンッと両手で叩き、正面に立つ男を睨み付ける。
「前代未聞!?そうなんだ~。じゃあ、僕がこの循環器内科にとって伝説の男になるワケだ!」
「何が伝説の男よ!あんた、心カテをナメてんの!?患者の体はラボのラットじゃ無いのよ?分かってんの?」
腰を屈めテーブルに両手をつけたまま、私は眉間に縦ジワを掘る。
「ヤダな~。分かってますよ~そんな事。相川先生の繊細な技術を、この一年間学んだからこその自信です。実際、上手くやれたでしょ?」
彼は悪びれた様子も見せず、それどころか飄々と言ってニッコリと笑った。
甘いマスクを緩ませながら、したり顔をする生意気なこの男。
彼の名は、新堂 蓮(シンドウ レン)26歳。この一年間、私が指導医として担当してきた二年目の研修医だ。彼は来月末で研修医を終え、医者として独り立ちをする。予定なのだが――
「何が『こその自信』よ。そのセリフ、あんたには50年早いわよ」
腕を組み、見据えながら鼻で笑う。
「ひでっ、50年て…その頃は名医どころか引退してんじゃないのか?」
「はっ?自分が名医になれるとでも思ってんの?おこがましい。名医じゃ無くて『迷医』の間違いでしょ?」
「なっ…」
「それと、私はあなたの指導医なの。研修終了まであと一ヶ月。いつも言ってるけど、評価を落とされたくなかったら、口の利き方に気をつけなさい」
「……」
「今日の反省文、書けたら私のデスクに置いておいて。じゃ、お先に~」
ぐうの音も出ない彼に素っ気なく手を振り、私は扉に手を掛ける。
「…また、どこぞの御曹司とデートですか?」
背中に触れた低い声。
「そんな事、『生徒』に話す義理も無い」
鼻先で笑って、彼からの視線を遮断するかのように扉を閉めた。
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