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「バレンタインの夜だって言うのに、見事に振られちゃいましたね」
突然と、背後から聞こえて来た声。
私はビクッと肩を跳ね上がらせ、目を皿のようにして振り返った。
「えっ、新堂くん!?なんでここに…」
目を白黒させる私。放った声は驚きのあまり裏返った。
「ショットバーで美女の一人飲みも絵になるけど。今夜は誰かと一緒が良いでしょ?」
「だからっ、なんでこんな所に新堂くんが居るの!?一体いつから?どこから私を見てたの?」
突然現れた教え子は、先ほどまで『過去の男』が座っていた椅子に腰かける。
「ここに来たのは10分前。居たのは後ろのテーブル席。どうして来たのかは、先生に反省文を書き終えた事を報告しに。ねっ」
そう言って、手にするビールを美味しそうに喉に流し込む。
反省文を書き終えた事を報告しに!?
「ふ、ふざけないでっ!」
「へ?…ああ、うん。それは冗談。本当はね、俺もここで飲む約束してたの。なのに、怖い先生が出した宿題をやってたら逃げられちゃったみたい。コンパで知り合ったばかりの可愛い子だったのにな~。この責任、取ってくれますよね?」
普段の白衣姿とは違う、パーカーにジーンズのカジュアルスタイルで現れた彼がニッコリと笑う。
不覚にも、その笑顔が可愛らしく目に映って。
「な、何で私が責任を!?バッカじゃ無いの!」
驚きも忘れ、らしくなく声を上擦らせる。
「ありゃ~、病院の外でも先生に叱られた。とにかくさ、せっかくだから一緒に飲もうよ。奢ってなんて言わないから~。ねっ。『可愛い生徒』と飲むくらい良いでしょ?」
笑顔を添えて私にメニューを差し出す彼。
「…別に、良いけど。生意気な生徒と一杯だけ飲むくらいはね」
私はメニューを受け取って、フッと息をついて微笑んだ。
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