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「嬉しいな。相川先生と外で会えるなんて。医局のマドンナと飲んだのばれたら俺、病院で暗殺されるかも。…あっ、先生フリーになったんでしょ?だったら俺を彼氏候補に入れてよ!」
おかわりしたビールをグビグビと飲みながら、彼は上機嫌な様子で声を弾ませる。
「やめてよ。あんたみたいなチャラチャラした年下の男は嫌いなの。それに…さっき、見てたんでしょ?そこに座ってた男が言った言葉も。私はマドンナなんかじゃないわ」
新堂くんが座る椅子に目配せして、自嘲的な笑みを零した。
「シングルマザーがどうとか、ふざけた男のくだらない言葉のこと?
何が『君は僕に相応しくない』だ。あんな嫌味な男のどこが良かったんだよ。年下に興味無いのは知ってるけど、あんな奴と付き合うなら俺の方がよっぽどマシだと思うけど?」
眉間にしわを寄せ愚痴っぽく言う。
「……あなたの事は嫌いじゃないわ。口と態度は悪いけど、頭の回転は速いし研修医とは思えないほど仕事もよくできる。だけど…駄目なの」
「年下だから?」
「あなたを見てると嫌でも思い出すのよ…5年前に別れた男の事を」
微かにジャズの流れる静けさの中に、呟くような声を落とした。
「5年前に別れた男?」
「……」
「…そうか。まだ好きなんだ、その男が。どうして別れたの?どこが俺と似てるかは知らないけど、他人を見て嫌でも思い出すほど好きだった男なのに」
手もとのグラスに目を遣る私の横顔を見つめ、彼は苦々しい口ぶりで言う。
「禁断の木の実を口にしてしまったから」
「はっ?」
「ある夜、頭のいかれた者達が集まるパーティーで出会った二人は、一瞬で恋に落ちた。その後、磁石の+と-が引き寄せられるように二人は激しく愛し合った。…自分たちが、腹違いの姉弟とも知らずにね」
「えっ…は?頭のいかれた者達が集まるパーティーって?…それ、どう言う…えっ…腹違いの姉弟って……ええっ!」
彼は、はち切れんばかりに目を見開き、驚愕を露わに頭のてっぺんから声を上げた。
「私とその男は、そのパーティーの主催者と二人の愛人の間にできた子供。…私はマドンナなんかじゃない。DNAから汚れた女よ」
放心する彼を見据え、自虐的な微笑みを浮かべる。
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