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咄嗟に壁に、手と耳を当てる。
少し乱暴に壁を叩いているようにも聞こえた。それに……声がする。
男の声だ。俺の読みは当たっているんじゃないか?
この向こう側にもうひとつ部屋があって、俺と同じように拉致監禁されている人が……。
いろいろな考えを巡らせていると、俺はあることに気がついた。
揺れているのだ。壁が。叩かれているからではない。
……これは、まさか……
そのまさかだった。
壁はがががと機械のような音を鳴らしながら、徐々に上へ上へと上がりはじめた。
まるで隠し部屋を現すかのような演出に、俺は戸惑ってしまう。
壁が完全に上がりきり、俺の目の前にもうひとつの部屋が姿を見せた。
それは俺がいる側の部屋と同じくらいの広さで、やはりベッドしか置いていない。
扉も窓もないところまで全く一緒だったが……決定的に違うところがひとつあった。
色だ。
俺がいる側の部屋は白。
しかし、現れた部屋の色は黒だった。真っ黒だ。
これはこれでおかしくなりそうだな……。
先ほどからぽかんとして身動きひとつとろうともしないこの男が着ている服も……黒。
こいつか、さっきから壁を叩いていたのは。
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