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「おい、関(せき)君!」   関君は黙って僕を睨んでから手をヒラヒラさせた。あっちに行けということだろう。必死なんだ……。みんな、チョコをもらうためにここまで……。 そんなの、都市伝説だと思い込んだ方がラクじゃないか。なんでみんな、そんなに必死なんだよ!   とりあえず一度冷静になるため、僕は自分の席に着き、教科書を机の中に入れる。どうにかしてやめさせないと、みんながチョコをもらえなくて咽び泣く姿が僕には想像できてしまう。 なんとか……なんとかしなければ。そこで僕は気付いた。席に座っていない、残り二割のことを。彼らなら、僕の話を聞いてくれるかもしれない。僕は教室の後ろの方で話す鳥島(とりしま)君を見る。  昨日見た夢とか、そんな広げようもないしょうもない話を渡辺君にしていた。あの二人なら、きっと僕の話を聞いてくれるだろう。    僕が立ち上がり、二人の元へ近づこうとすると、右の方から殺気を感じて、体が固まった。  なんとか目だけをそっちへ向けると、そこにはちゃぶ台くらい大きなハート型のチョコを入れてあると思われる包装紙をそれよりも大きな体で抱きかかえ、怒りで持ち前のムキムキな筋肉をうならせている金剛さんがいた。  そのオーラは東大寺南大門にある金剛力士像にも引けを取らない。 よく鳥島君と渡辺君を見ると、二人とも汗をかいている。  この時期にかく汗なんて、冷や汗しか考えられない。そうか、そういうことか! 
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