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金剛さんが……自分が抱きかかえているチョコを羽交い絞めの要領で締め付け、耐えられなくなってきているチョコの音だとすぐに分かった。
バキバキと嫌な音を立てて、ハート型が崩れていく。まさに、ハートブレイクの真っ最中と言ったところだ。
きっと、話している人数が増えたことで怒りが頂点に達したんだ……。背中に寒気が走り、体が硬直していくのが分かる。
しかし、渡辺君だけは違った。震える体で烏君をかばうように前に出る。
「こ、金剛さん、落ち着いて!」
だけど、もう遅かった。渡辺君がそう言ったとき、チョコはすでに粉々になっているのがくしゃくしゃになった包装紙から見て想像できる状態だったからだ。
ぐしゃぐしゃになってしまったそれを、金剛さんは抱きかかえながら僕らの前を通り過ぎ、
閉まっていた扉を開けることなく体当たりで突破してどこかへ走り去ってしまい、それを見届けてから、烏君と渡辺君はお互い一言も言葉を交わさず、黙って席に着く。
目当ての女子以外からもらわないためには情に流されず、時には非情なこともする、そんな烏君の背中に漆黒の翼が見えたような気がしたが、まだまだ戦いはこれからだということに僕は気付いた。
というのもさっきまでまばらだった女子たちが続々と増えてきたのだ。他の男子生徒もそれに気付いたのか、更に目の輝きを増した気がする。
しかしそれよりも、女子たちが来る前からこんなに努力する男子生徒のことを考えると、哀れでならなかった。
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