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(そういえば、今日から夏服に完全移行だっけか……)
ふと思い出した通う高等学校の規則に、少年は着かけていた中間服を脱ぐと、ビニールのカバーに入った綺麗に整えられていた夏服に手を伸ばした。
先にも記した通り少年は高校生だった。
別段これといって物珍しくはない人生を送ってきた彼からすれば、それは当然というか別段気に掛けることではなかった。
『当たり前』。
基本中の基本。常に有り得ている事実、テコを使おうと微動だにしない日常。
本格的に『夏』としての本質を現してきた八月。
開けた窓から流れてくる暖房のような風は、少年の部屋の中に溜まっていた冷房の恩恵をことのごとく消し去っていった。
別に、語ることなどないのだ。
殺風景で平々凡々で淡白で質素なこの少年のことなど、所詮語ろうとしてもこの程度の内容に収まってしまう。
学校指定の鞄の中身をチェックし、鏡を見て寝癖を整え、家を出る支度を済ませた少年は風通しの良くなった久方ぶりの制服に多少の違和感を覚えつつも自室の扉を開け、廊下を通って玄関へと。
玄関を開けたガチャリという音と共に、世界は豹変した。
まだ八時前だというのにも関わらず、むっとする熱気が少年の身体に纏わりついた。
ただ青空に浮かぶ遥か空の先から煌々と地に紫外線を放つ太陽だけがこの場で唯一活き活きとしていた。
--暑い。
まったく、こんな暑さの中で自分はなぜ中間服などというものを着ていたのか。
数分前の自分には最早疑問しか浮かばないが、それでも今こうして真夏の力なき暴力に耐えれているのはあの時思い出したから他ならない。
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