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少年はじりじりと肌を焼く暑さにため息を吐きながらも着々と足を進めていく。
--あつい。
半そでから見えた少年の肌から一滴の汗が、しがない住宅街の道路に落ち、熱に侵されたアスファルトの上でジュウッ、と音を立てた。
感じた。確実な違和感。
--熱い。
(人が--いない?)
感じた違和感の原因はなんなのだろうか。
真夏の照り付けにしては凶悪すぎるこの暑さか。
はたまた平日の午前にしては静かすぎる、車一つ通らないこの住宅街か。
それとも--。
「よぉ、相も変わらずふてくされた面(ツラ)だな」
--当然と、道路脇にある電柱の天辺に現れた何者かに対してか。
熱気揺らぐアスファルトは、ジリジリとゆらゆらと少年の視界に形をもって顕現する。
少年がまず見入ったのは現れた何者かの容貌だ。
雪のように白い髪に、闇の中に光る獣の目を思わせる金色の相貌。
身に着けているのは上下一貫で胸の辺りにある複数のボタンが留められているフード。
何所を取っても少年にとっての『普通』には成りえない『何か』。
そんな『何か』は静聴者のことなど一切配慮することなく続けた。
「案の定、何言ってんのか分かんねぇって顔だな。当然だ。ま、別にそこにイラついたってわけじゃあないんだが--」
その言葉を最後まで聞き届けることもなく、少年は駆けだした。駆けだしていた。
本能に基づいた純粋な感情を、『得体の知れない何か』へ抱いた恐怖を少年はその頭で完全に理解できていた。
だからこそ、逃げた。
『アレはマズイ』。『逃げろ、ニゲロ』。
行く先など決めていない。決めれるほど思考が回っていない。
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