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しかし、
「ほら、またコレだ。……ったく、この調子じゃお前もあいつ等と同じ『本物』なのかね」
ただひたすらに走り続けた少年の体力には直ぐに限界が来た。
少年が住宅街から飛び出し、訪れた見通しの良い公園のジャングルジムの上に、その『何か』は腰かけていた。
--熱い。
少年が来たことを確認した『何か』は静かに立ち上がると、軽く右手を宙に横一文字に払った。
そこまでが少年が理解することができた出来事。
そこからが少年の理解することができなかった出来事。
払った掌に紅蓮の灯が集まっていた。
まさに火の玉とでも比喩すればいいのだろうか。
持ち主の意志に従い『疑似能力(オーバーアビリティ)』は煌々と茹で上がった世界を照らし出す。
何も言うまい。何も、言えまい。
恐れる間もなく逃げる間もなく、少年の姿は地を駆け巡ってきた業火に呑みこまれた。
最後に感じたのは真夏の暑さかはたまた業火の熱さか。
噴き上げる灼熱の中、視界の端に白い『何か』が見えた気もしたが、最早どうでもいい。
意思も遺志も残さず、単純で作業的な少年の人生は、このようにして終わりを迎えた。
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