プロローグ 

6/6
前へ
/29ページ
次へ
しかし、 「ほら、またコレだ。……ったく、この調子じゃお前もあいつ等と同じ『本物』なのかね」 ただひたすらに走り続けた少年の体力には直ぐに限界が来た。 少年が住宅街から飛び出し、訪れた見通しの良い公園のジャングルジムの上に、その『何か』は腰かけていた。 --熱い。 少年が来たことを確認した『何か』は静かに立ち上がると、軽く右手を宙に横一文字に払った。 そこまでが少年が理解することができた出来事。 そこからが少年の理解することができなかった出来事。 払った掌に紅蓮の灯が集まっていた。 まさに火の玉とでも比喩すればいいのだろうか。 持ち主の意志に従い『疑似能力(オーバーアビリティ)』は煌々と茹で上がった世界を照らし出す。 何も言うまい。何も、言えまい。 恐れる間もなく逃げる間もなく、少年の姿は地を駆け巡ってきた業火に呑みこまれた。 最後に感じたのは真夏の暑さかはたまた業火の熱さか。 噴き上げる灼熱の中、視界の端に白い『何か』が見えた気もしたが、最早どうでもいい。 意思も遺志も残さず、単純で作業的な少年の人生は、このようにして終わりを迎えた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加