過去

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「KIJIは本当に可愛いね」 そう言ってノズミ兄が私の頭を撫でる。 これが私の一番古い記憶だ。 小さな川のほとりに私たちは住んでいた。 二人きりで。 「この静けさが僕は好きなんだよね」 誰もいない、何もない風景。 いや、川はあるし小高い丘もある。 鳥は風に歌をさえずり、太陽は高いところから燦々と光を降り注ぐ。 ごく普通の風景。 「ずっとこのままだといいのにね」 ノズミ兄は風に髪を遊ばせてそう呟くと微笑んだ。 そして私はそれに「うん」と答えて笑い返す。 これが私達の日常だった。
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