万法院家のいつもの朝

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 万法院家の朝はいつも静かに始まります。  小学5年生の真穂がてきぱきと登校の準備をし、朝食の準備までします。じつによくできた子です。  トーストと牛乳、ツナオムレツとポテトサラダ。  真穂が朝食を食べ終わるころに、ようやく真穂の母・妖子はダイニングに眠そうな顔でのっそりと現れます。 「おはよー」 「おはよう、ママ。朝ごはん、用意してあるから」 「ん……」 「わたし、もう学校へ行くね」  妖子はあくびをひとつ、 「行ってらっしゃい」  色鮮やかなオレンジ色のランドセルを背負い、玄関を出て行きました。  レジデンス茜台――401号室。  通路から見える4階の景色が目の前に広がっていました。住宅街が広がっていて、ゆるやかにカーブする大きな川にかかる鉄橋を電車がわたっているのが遠くに見えて、ガタンゴトンという音が小さく聞こえます。 「おはようございます」  同じ階の一番端――405号室に住んでいる高校生・天海みこもちょうど登校の時間で、通路に出てきていました。 「おはよー」  陽気に応えるみこ。高校生の身分で一人暮らしをしていることから、周囲からは「なにか特別な家庭の事情」を噂されているのですが、真相はだれも知りません。  とはいえ、親しくしてもらっていて、姉妹のいない真穂にとって、同じ階のみこは姉のような存在でした。  二人して階段を下りていきました。 「レジデンス茜台」は、5階建てで1フロアには5戸あります。(1階の101号には管理人室で、管理人の種田イネが住み込んでいます)
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